やじゃあどん
熊本県人吉市の東部方面に伝わる昔話。
ちょっと変わった不思議なお話です。

 


 
 やじゃあどんは、今日もいい天気になったので、山にさし(かやの束を突き刺してかつぐ棒)をかついで、かやかりに出かけた。谷川にかかると。そこに、カニがおった。
 やじゃあどんは、
「ようし、いっちょ、さしで突き刺してやろうばい。」
と言って、カニをめがけて、「えいっ。」と突き刺した。
 ところが、さしはカニの甲羅をつるりとすべって、そのひょうしに、さしの反対側にくくり付けていたかやかり鎌が、自分の首にあたった。首は、ころっと切れて道に転がった。やじゃあどんは、
「あれぇ、道ばたに人の首の落ちとったい。だれじゃろか。大事なもんば。」
と言って、拾い上げた。
「おやまあ、こらぁ、わしによう似とるばい。」
と、自分の首に手をやってみると、自分の首がない。
「わあ、こらあ、おれの首じゃった。」
と、あわてて自分の首を拾って両手で押し込んだ。
「ああ、これでよかった。さあ、山に急ごうばい。」
と歩き出したが、どうも歩きにくくてしょうがない。
「何か歩きにくうて、調子の悪かなぁ。」
と思っていると、自分の家が見えてきた。やじゃあどんはびっくりして、
「あんれ、なんちゅうことかい。山に行くて思うとったら、自分の家に帰ってしもうた。」
と、思わず頭をかこうとして気がついた。
「ややっ、こらしもた。首ば前後ろ、さかさまに付けてしもうた。どうりで歩きにくかったつたい。後ずさりして来よったつたい。」
と言って、首をひとひねり向け直して、すたこらすたこらと、山に向かって歩きだした。

 やじゃあどんは、山道を歩きながら、
「ああ、よかった。誰も見とらんでよかった。こぎゃんこつば(こんなことを)人に見られたら、はずかしゅうてならん。」と、ぶつぶつひとりごとを言うていた。
 ところが、ちゃあんとそれを見ていたものがいた。
 それは、お山のきつねとたぬきだった。
「なあ、やじゃあどんの、みょうな事ばしていたぞ。首ば後ろ向けてあとずさりしたり、向けなおしたり・・・・・。おどんたち(私達)もだいぶ人をだましたばってん、ああいうこつはしきらん。やっぱ、やじゃあどんは偉かばい。」
と感心した。
「ようし、負けるもんかい。いっちょ、やじゃあどんに一ぱいくらわせてやろうじゃなかか。」
どぎゃん(どういうふうに)するな。」
「あのな、わしがあすの朝、六時半頃日本一のよか馬になっとくけん、あんたはやじゃあどんに化けて、わしば引いて村長さんがたに売りにいくとたい。六両ぐらいに売って山分けすったい。わしは、晩になったらコンコン鳴いて、逃げ戻るけんな。」
「そらあ、よか知恵ばい。よし、そうしよう。」
と話し合っていた。やじゃあどんは、道ばたに声がするので、聞き耳をたててみると、きつねとたぬ きが相談をしている。やじゃあどんは、手をたたいて喜んだ。
 あくる朝、やじゃあどんは、六時にきつねのところに出かけていった。きつねはびっくりした。
「わあ、早かなあ。あんた、ようやじゃあどんに化けたなあ。ばってん、六時半の約束じゃったろ。」
「うん、ばってん、村長さんな早起きだけん、早よ行かんと、て思うたつたい。」
 そう言うと、きつねが馬に化けるのを待って、村長さんのうちに引いていった。
「村長さん、おはようございます。」
「やじゃあどんな、えらい早う何ごとな。」
「村長さんは馬好きだけん、きのう熊本(中心部)に行ったらよか馬のおったので、さっそくこうて(買って)来たっですたい。」
「うーん、こらあよか馬ばい。いくらで売るとな。」
「六両でよかですたい。」
「五両にまけんかい。」
「そっじゃあ、わしが損する。よか馬だけん、六両なもらわんと。」
そう言うと、さっさと村長さんのうちの馬小屋につないで、六両もらってすまして帰ってしもうた。

 やじゃあどんに化けたたぬきは、六時半にきつねのところに行ったが、きつねはいない。
あぎゃん(あんなに)約束したつに。きつねどんな、どこに行ったろか。」
と、あちこち探してみたが、どこにもいない。しかたなくたぬきはうちに帰った。
 その晩、村長さんの馬小屋で、
「コン、コンコン。」
ときつねの声がしたので、村長さんが行ってみると、六両の馬がいない。村長さんは、あわてて、やじゃあどんのうちにとんでいって、
「やじゃあどん、やじゃあどん。六両の馬のきゃあ逃げた。来ちゃおらんな?」
と言った。やじゃあどんは、すまして、
「なんのこつですか?」
「あんたから、けさ買うた馬の話たい。」
「ははあ。そらあ、村長さん。あなた、たぬきにだまされなはったつですばい。きのう、わしが、山道ばいきよったら、たぬ きがわしに化けて、馬に化けたきつねば、村長さんに売り付くる相談ばしよりましたもん。そらあ、村長さんな大損しなはったですなあ。」
と言った。村長さんは、かっかと怒って、たぬきのところへ急いだ。
 たぬきのうちでは、きつねとたぬきが、けんかをしていた。
「おい、たぬきどん。今戻ってきたばい。早よ三両わけてくれ。」
「あれえ、あんた、どけへ(どこへ)行っとったつな。」
「どけへてあろかい。あんたが、けさ村長さんがたに引いていったろが。」
「なんてな。わしは、ちゃんと六時半にあんたのうちに行ったとに、あんたおらんだったろう。」
「なんの、あんたは六時に来たろうが。そして、村長さんな早起きだけん、早よ行こちゅうて、急いで引いていったろうが。」
「こらしもうた。そらあ、やじゃあどんにやられたつばい。」
「なんてや。三両やろうごつなかけん、そぎゃん(そんな)こと言いよる。」
と大騒ぎ。そこへ、村長さんがやってきて、
「こらあ、お前達や、よくも俺ばだまくらかしたな!」
と、さんざんに棒で叩いた。
 
 六両もうけたやじゃあどんは、それで日本一の鉄砲を買った。
 そこで、さっそく、猟に出かけた。山に入ると、大きないのししが昼寝をしていた。やじゃあどんは、狙いをさだめて、「ズドン。」と一発、発射した。いのししは、びっくりして、逃げ出した。やじゃあどんの撃った玉 は、いのししの寝ていた後ろの大きな石にカチンと当たると、くるりと向きをかえて逃げていくいのししの後を追いかけた。
やじゃあどんもびっくりして、
「あれ、あれ、あれえ。」
と言っていると、追っかけた玉がいのししにガーンと命中した。
「わあ、こらよかった。こらあ太か(大きい)いのししのとれたばい。」
と喜んで、足をくくって担ごうと、結ぶものを探した。大きなつるがあったので、引っ張ってみると、山芋のつるだった。
「ああよかった。今日は山芋まで採れたばい。」
と、山芋のつるでしっかりといのししをくくり、左の肩に山芋といのしし、右の肩に鉄砲を担いで、山をおりはじめた。
 すこし行くと川があった。
 やじゃあどんは、じゃぶじゃぶと、川を渡りはじめた。すると、足にうなぎが触った。やじゃあどんは、うまく踏みつけて、うなぎを捕まえた。川を渡り終えると、両方のポケットには、ふながたくさん入っている。
「まあ、まあ。今日は、よっぽど運のついとる。」
と、ほくほくしながら、山道を登りおりして、我が家に急いだ。山道はいばらがいっぱい。
 そのうちに、やじゃあどんの靴の裏がすりやぶれてきた。山芋も、いのししも、すり切れてしまう。
鉄砲もすり切れてしまった。しまいには、やじゃあどんの足も手もすり切れた。
 やっと、自分の家に帰りついて、
「ただいま。」
と言ったときは、もうやじゃあどんの体もすり切れてしまって、声だけが帰りついたそうな。

 おしまい。

 


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