|
むかし、高森のとある村に、ふたりの姉妹がいた。
姉は、白菊といって、その名のように色が白くて目もとのかわいい娘であった。どうして田舎にこんな美しい娘がいるのだろうかと、村人さえふしぎがるほどだった。
妹は、黄菊といって、これも姉におとらぬたいへんきれいな子で、母親にかわいがられていた。
ところが姉のほうは、お母さんが違っていた。このまま母は、いじわるな人で、白菊を何かにつけいじめていた。しかし、白菊は、やかましいまま母に口ごたえひとつしないで、ただ、
「はい。はい。」
と、仕えていた。
ある秋、この村の奥の阿弥陀様のお堂の前の椎の木に、実がたいそうなった。秋も深くなって、冷たい風が吹く頃、ぴっちりと実った椎の実が、ぽつぽつと落ちはじめた。
ある日、母は、二人の子をよんで、
「昨日は、朝から山に風が強く吹いたので、椎の実もよう落ちたろう。だから、今から阿弥陀堂の椎の実を拾っておいで。この袋いっぱい拾うたら帰ってくるんだよ。」
と言って、白菊には大きな破れ袋を渡し、黄菊には小さな袋を渡した。
言われた通り、椎の実を拾いに行くと、妹の袋は、すぐにいっぱいになった。妹は姉の白菊に、
「姉さん、手伝いましょう。」
と言ったが、姉は、
「あなたは先に帰りなさい。私はもう少し拾って帰るから。」
と、答えた。妹はしかたなく日の高いうちに家に帰った。
姉の白菊の袋は破れているので、どんなに椎の実を入れても、すぐにぽろぽろこぼれて、すこしもたまらない。
秋の日は、つるべ落としに早く暮れて、あたりは暗くなってきた。白菊はしかたなく、阿弥陀様のお堂に入り、
「阿弥陀様、どうか私を一晩泊めてください。」
と、手を合わせてお願いした。
すると不思議。お堂の奥におまつりしてある阿弥陀様が声を出して、
「ああ、いいとも。お泊まりなさい。今夜、袋の破れをつくろって、明日早く帰るがよい。だが、夕食をとらねば、ひもじかろう。私の右の耳からひと粒の米、左の耳からひと粒の粟(あわ)を出してあげよう。ここに杓子があるから、米と粟をひと粒づつ釜に入れ『いっぱいいなあれ。いっぱいになあれ。』と言いながら、この杓子でかき混ぜると、御飯が釜いっぱい出来る。そしたら、米の御飯を自分で食べて、粟を私に供えなさい。」
と、教えてくださった。
白菊が、言われた通りにすると、みるみるうちに、釜いっぱいの御飯が出来た。白菊は、阿弥陀様に米の御飯をお供えし、自分は粟の御飯をいただいた。
阿弥陀様が、また言われるには、
「このお堂には、毎晩鬼どもがやって来るので、天井の上に休むがよい。ここに、竹の皮のかさがある。火吹き竹もあるので、二つとも持って隠れなさい。そして、鬼どもが来たら、この竹がさで、とりの羽音の真似をしなさい。ぱたぱたと音を立てて、火吹き竹を口に当てて、コケコッコーと言うと、遠くにいるニワトリが鳴くだろう。そうすると鬼どもは、夜明けが近いと思って、山奥に帰っていくはずだ。」
そして、阿弥陀様は、大きな手を差し伸べられたので、白菊はその手にのぼり、肩にのぼって天井にあがっていった。
しばらくすると、ドスン、ドスンと、大きい足音とともに、たくさんの鬼どもがやって来て、
「人間臭い!人間臭いぞ!」
と、わいわい言いながら、お堂の中に入ってきた。そのうちに、一匹の大きな鬼が、
「人のにおいは、天井からするなー。」
と言って、天井に手をかけようとした。
白菊は、竹がさを取り出し、
「パタパタ、パタパタ。コケコッコー!」
と、三、四回、ニワトリの鳴き声をたてた。すると、鬼どもは急に、
「おや、もう早どりが鳴く。こりゃあすぐ引き上げねば、夜が明けるぞ。いそげ、いそげ。」
と言いながら、ぞろぞろと引き上げていった。
あまりの恐ろしさに白菊は、夜通し震えていたが、ほうぼうの家からニワトリの鳴き声がつづいて、しだいに夜が明けてきた。白菊は、阿弥陀様の前に手をついて、
「阿弥陀様、おかげで助かりました。どうもありがとうございました。」
と、お礼を申し上げると、つくろった袋の中には椎の実がいっぱい入っていた。白菊は、不思議な杓子も阿弥陀様からいただいた。
「本当にありがとうございました。」
と、何度もお礼を申し上げて、我が家に帰りついた。
白菊は、帰るとすぐ、昨夜の恐ろしかった出来事と、ふしぎな杓子の話をみんなに聞かせた。そして、杓子を使って、ひと粒の米で釜いっぱいの御飯を炊いてみせた。
母は翌日、白菊には新しい小さな袋を渡し、黄菊には、大きい破れ袋を持たせて、椎の実拾いに出した。白菊は日の高いうちにいっぱい拾ったが、黄菊の破れ袋には、やはり、ぜんぜんたまらない。
黄菊は母が言いつけたように白菊を家に帰し、阿弥陀様にお宿を借り、左右の耳から米と粟(あわ)をひと粒づつ出してもらい、例の杓子で混ぜ、釜いっぱいの御飯を炊いた。そして、出来た御飯の米を自分で食べ、粟を阿弥陀様にお供えした。食事が終わると、今度は、姉と同じく竹の皮のかさと、火吹き竹を借りて、阿弥陀様の大きい手の平にのぼり、肩にのぼり、天井にのぼって、日の暮れるのを待っていた。
やがて、ドスン、ドスンと、大きな音がして、鬼どもがやってきた。一匹の大きな鬼が、
「人間臭い。人間臭いぞ。」
と言いながら、近付いて来る。黄菊は今だと思って、竹の皮でかさでパタパタと音を立て、火吹き竹で、コケコッコーと声高く鳴いた。が、おかしくなって、
「ククククッ。」
と笑ってしまった。それに気付いた鬼は、
「人間だ!」
と言って、天井に飛び上がり、
「ゆうべの偽ニワトリは、こやつであったか!にっくき小娘め!今夜こそ逃さぬ
ぞ!」
と言って、天井から黄菊を引きずり降ろした。
家では、母親は、まんじりともせず待っていた。夜が明けても黄菊は帰って来ない。
母は、心配して、阿弥陀堂まで行ってみた。すると、阿弥陀堂の前庭には、黄菊の着物の切れ端が八方に散らばって、大きい気味の悪い足跡ばかりが、たくさん残っていたそうな。
おしまい。
|