なばの泣き堰
阿蘇一の宮町の昔話。
泣くと物凄い力が出る不思議な若者のお話です。

 


 
 ※このお話には「なば」という言葉が出てきます。熊本弁で「キノコ」という意味です。

 むかし、阿蘇の村にばかでっかい若者がいました。年端もいかない小さな子供達にからかわれたりあごで使われたりしても、おこるでもなくいつもにこにこと笑っていました。
 若者には不思議な力がありました。けれども、その力はいつも出せるというものではありませんでした。おかしなことに、若者が大声をあげて泣くときにしか出せない不思議な力でした。

 ある日のことです。子供達が山へなばを取りに行きました。でっかい若者もあとからついていきました。やがて子供達は、二かかえも三かかえもある大きな木に生えている、たくさんのなばをみつけました。子供達は、わいわい騒いで取ろうとしますが、木の高いところに生えているものですから、誰も手が届きません。それに、登って取ろうにも、木が太く大きいものですから、登ることすらできません。子供達はただわいわいがやがやと騒いでいるだけでした。そのうち、一人が、そばにでっかい若者がぽかんと立っているのに気がつきました。
「おい、お前。なばば全部取ってきたら、おまえにも分けてやるぞ。」
 若者はこっくりうなずいて、幹に手をかけました。手の届くところに枝はありません。若者はよいしょと抱くようにして幹に組みつきました。とたんにずるずると落ちてしまいます。今度は、もう少し上の方に飛び上がって組みつきました。けれども、今度も同じでした。高いところに組みついた分だけ手足がこすれ、血がにじみ出てきました。そんなことを何度かくり返しているうちに、手足の皮は破れ、着物はぼろぼろになってしまいました。
 若者は、だんだん悲しくなってきました。子供達になばを取ってあげられないのが悲しくてなりませんでした。
「ああ痛か。こん木に登りきらん(この木に登れない)。こん木に登りきらん。」
 クスン、クスンと鼻声で泣くと、目から涙がぽろりと落ちました。すると体の中が少し熱くなりました。またクスンクスンと泣きました。今度は前よりも体が熱くなってきました。それといっしょに、力がぐぐっとわいてきました。
「ウワーン、ウワーン。木に登りきらーん。」
 若者は、山を震わすほどの大きな声で泣きました。ぐぐぐぐっ。若者の体に力がみなぎってきました。若者は、泣きながらなばの生えている大木に組みつきました。すると、大木がぐらりと揺れました。若者は、力任せに根ごと引き抜きました。それは、まるでツクシを引き抜くようなたやすさでした。そればかりではありません。となりの木などは、引き抜いたかと思うとぐるぐると振り回し、プツリ、プツリとねじ切ってしまうありさまでした。この様子を見ていた子供達は、びっくりして一目散にわが家に逃げ帰りました。若者は。ゆうゆうをなばを木ごとかついで村に持ち帰りました。
 このことがあってから、村人達は、若者を「なば」と名付けました。

 小嵐山(一の宮町)を流れる鹿清川は、大雨が降るときまってあふれ出て、村人達を困らせていました。この鹿清川が流れる村のとなりに、山田村(阿蘇町)という村がありました。この村は水が少ないために、田んぼを今以上に増やすことができないでいました。そこで、両方の村人が話し合って、この川に堰を築き、山田村に水を引くことになりました。こうすれは鹿清川の上流の村は田んぼに水がかぶらないようになるばかりか、山田村も水に困るということがなくなります。
 いよいよ工事が始まりました。両村の大勢の村人達が、朝早くから夜遅くまで、汗にまみれて働きました。
 工事にかかって何ヶ月かたちました。その日は、朝から雨が横殴りに降っていました。村人達は、ざんざん降りの中で必死になって堰作りを急いでいました。堰作りは急がねばなりません。近付く雨期をひかえ、増水のために途中まで出来上がった堰を流されては、今までの苦労は水の泡となってしまいます。
 ところで、なばを見ると、なばは、朝からぬれねずみのまま、堤に立ってぼんやりと村人達の仕事ぶりを眺めています。そんななばの姿を見て、村人達は、
「いかに力が強かろうが、いざというときゃ、役立たん。」
「やっぱり、なばのバカ太郎ばい。いざというときゃ、役立たん。」
と、口々に罵りました。なばは、
『おらあ、やっぱりバカかなぁ。こぎゃんこつもできんとかなぁ(こんなこともできないのかなぁ)』と思うと、しだいに悲しくなってきました。すると、涙が頬をつたっって、ぽとりと一粒落ちました。
「おらぁ、やっぱり、お人好しの大バカばい。」
と、クスンクスン泣き出しました。すると、体の中が熱っぽくなってきました。
「ウワーン、ウワーン、ウワーン。」
 体中がだんだん熱くなってきます。ぐぐっ、ぐぐぐっと力がわきはじめました。
「ウワーッ、ウワーッ、ウワーッ。」
 悲しみもどんどんふくれ上がってきました。力も泣けば泣くほど、ぐぐぐっ、ぐぐぐっとみなぎってきます。
 なばは、大声で泣きながら、近くの竹山にかけ込みました。
 竹山から飛び出してきたときには、なばの両脇には、大人の頭の太さほどもある竹を抱えきれないほど抱えていました。なばは、あきれ顔の村人をしり目に、その竹を川底に打ち込み、大石を投げ積むと、また竹山にとって返し、何度も何度も、堰と竹山の間をかけ続けました。
 なばの体からは、湯気がもうもうと立ちのぼっています。雨はなばを避けて降っているのでしょうか、なばの体の周りを湯玉 となっては跳ね散っています。
 堰は見る間に出来上がっていきました。川の水もどんどん溜まっていきました。溜まった水は、新しく作られた堤防の中にどうっと流れ込み、激しい水音を立てながら山田村に向かって流れはじめました。
なばの力で、堰は見事に出来上がったのです。
「なばが堰を作ったぞうっ!なばが堰を作ったぞうっ!」
「なばが泣いて堰を作ったぞうっ!なばの泣き堰じゃあ!」
「これで山田にも水がひけるぞ!田んぼが作れるぞ!
 村人達は手を取り合い、おどり上がって喜びました。

 以来、村の人々は、この堰を「なばの泣き堰」と呼んだそうです。

 おしまい。

 


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