からいも問答
八代に残る「彦一とんち話」のひとつです。
彼のとんちは、一休さんのとんち話と、どこか通じるものがあります。
ちなみに、「からいも」とは、「さつまいも」の事です。

 


 

 八代の殿様は、いつも彦一にだまされているので、もうこれからは、絶対にだまされないぞ!
と決心しました。
 5月にはいって半ば過ぎた、ある日のことです。殿様が家来を相手にして、将棋をさしていました。そこへ、彦一がにこにこ笑いながらやって来ました。殿様は、「そら、彦一が来た。今日は、彦一にだまされんように気を付けよう。」と、横目で彦一を睨みながら、将棋をさしていました。でも、彦一のことが気になってしょうがありません。とうとう負けてしまいました。
 殿様は、悔しくてたまりません。彦一が来なかったら勝つはずだったと思うと、いっそう悔しくなりました。
「彦一。今日は、絶対だまされんぞ!この前は、かっぱを釣るからと言うて、くじらの肉をうんと取られてしまったが、もう、これからは用心するからな!」
「とのさん。前んことは言わんごつしてくだはりまっせ。おかしかですばい。」
「うん、よしよし。これから先のことに注意しよう。もう、決してだまされんぞ。」
 彦一は、殿様の横に座って、にこにこ笑っていました。
「彦一。お前が笑うと、どうも気色が悪い。また、だまされるような気がしてならん。
今日は、もう、なんと言われても信用せんからな。」
「わあ。こら、いかんばい。今日は、とのさんばだまかすとは、あきらめて帰ろう。とのさん、心配しなすな。」
「ほう。彦一、あきらめたか。今日は、わしの勝ちだな。決してひっかからんからな。それでもだますことが出来たら、米三俵をつかわしてもよいぞ。」
「とのさん、もう、やめまっしょ。だまかす、だまかさんて言い合うことは、ばかんごたるこつですばい(ばかみたいなことですよ)。」
 彦一は笑いながら、お菓子皿のまんじゅうを食べ始めました。殿様も、安心した顔で一緒にまんじゅうを食べていました。まんじゅうが、あと一つになった時、彦一が急に笑い出しました。殿様は、びっくりして、
「ああ、びっくりするじゃないか。おまえが笑うと、用心せんといかんね。」
 殿様は、じいっと彦一を見つめて、持っていたまんじゅうを一口に食べてしまいました。彦一は、すました顔で、そばに座っている家来に向かって言いました。
あんですな(あのですね)、とのさんな、相手になってやんなはらんですけん(くださらないですから)、ああた(あなた)に話してあげまっしょか。」
 殿様は、わざと庭を見て聞こえないふりをしていましたが、聞きたいなと思う気持ちが、横顔にはっきりと現れていました。彦一はささやくように言いました。
「あんですな。今年、わたしが作ったからいもの太さ、太さ。おとなが二人で抱きまわして、やっと指先のつながるごと(ように)、太かつですたい。三百人分はあるでしょうな。」
 家来は、びっくりして、
「二人で抱きまわして、指先がつくぐらい。そらあ、八代一のからいもたい。」
「はい。八代どころか、肥後の国(熊本)にもなかろうと思うとります。わっはっはっは。」
「ううん。そら、そうだろ。ひょっとするなら日本一かもしれんな。」
 二人の話を聞いていた殿様は、とうとう吹き出してしまいました。
「こらこら、彦一。うそを言うな。そんなに太いからいもができるもんか。だまそうて思うても、わしには、ようわかっとる。」
そぎゃんたいな(そうですね)。ちいっと太すぎたごたる。ほんな(ほんとの)太さは、このくらい。」
 彦一は、両手で大きく輪を作りました。家来はうなずいて、
「ふうん。そんくらいでも日本一ばい。彦一は、からいも作りの名人たい。」
 殿様は、頭をふりながら、
「ばかなこと。まあだ太すぎる。まだまだ、小さいはず。わしは信用せんぞ。」
「そんなら、このくらい。とのさん、このくらいなら信用しなはるですか。」
 彦一は、置いてある丸いおぼんを指しました。殿様は怒ったような顔をして言いました。
「まだ。まだ太すぎる。」
「えーくそ。そんなら、一升徳利・・・・・。」
「まだまだ。太すぎる。」
しょんなか(しょうがない)。とのさんにゃ勝たん。この土瓶ぐらいですたい。」
「それでも太すぎる。まだまだ小さいはずじゃ。」
 殿様は、彦一が、からいもの大きさをだんだん小さくするものだから、にこにこ顔になってきました。
「これでしまい(さいご)ですばい。一合びん・・・・・。」
「そうそう。彦一が作ったからいもなら、そのくらいだろう。そんなら信用してもよい。どうだ。今日は、だまされんだったろう。」
「わっはっはっは。ああ、おかしか。」
「こら、彦一。おまえがおかしいことはなかろうが。おかしいのはわしのほうばい。」
ばってん(しかし)、とのさん。今は五月ですばい。まあだ、からいもは苗ば植えたばかりで、ことしゃ、できとらんですばい。」
「・・・・・・・。」

 おしまい。

 


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