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むかし、御船のあるところに、医者どんと山伏と軽業師が住んでおった。ところが、三人とも、同じ日の、同じ時刻に死んでしもうた。
医者どんが、冥土の薄暗い、しーんとした無気味な道をとぼとぼ歩いていると、
「おーい!」
「おーい!」
と呼びかけながら、後ろから追っかけてくる者がいる。医者どんが立ち止まって、しばらく待っていると、山伏と軽業師が息をはずませながらかけよって来た。そこで三人はよい道連れができたと、お互いに喜びあった。
「一体、この道は、どけ(どこに)行くとだろか。」
「極楽にいくとにゃー、ちょっと暗かごたるが(暗いようだが)、まさか地獄の一丁目じゃなかろね。
ばってん、こっちゃんいかにゃしょんなかたい(しかし、こっちに行かないとしょうがないね)。」
そんなことを話しながら、歩いておった。そのうちにひろびろとした広場に出た。その広場の向こうには黒い大きな門があり、門の両側には見上げるように高い、切り石を積み上げた頑丈な塀が長々と続いていて、道はそこで行き止まりになっている。三人は、どこといって別に行くあてがないので、正面の横手にある通用門を見つけて、ドンドン、ドンドンと、戸をたたいた、すると、
「うるさいのう。」
という声といっしょに、「ギィー。」という戸のきしむ音が聞こえて、門が開いた。
門が開いたので、三人は何気なくその中に飛び込んでしまった。飛び込んだとたん、三人は腰をぬかさんとばかりに驚いた。扉のかげから大きな赤鬼が出てきて、三人を見据えていたからである。今となっては、逃げようにも手立てはない。
赤鬼は三人を閻魔庁へ引き立てて行った。
閻魔大王は浄玻璃の鏡(死んだ人が生前、どんなよい事をしたか、どんな悪い事をしたかを写し出すという鏡)に、三人の生きていたときのおこないを写してみて、
「三人とも下界では、相当悪いことをやっているわい。」
と言った。そして、
「この者たちを地獄の釜の中に投げ込んで、ゆで殺してしまえ。」
と、鬼たちに言いつけた。
三人は、大きな釜の前に引っぱられて行った。そこには、釜番の鬼がいて、釜の下に薪をどんどん放り込むので、釜の下には真っ赤な火が燃え立ち、釜の中の湯はぐらぐらと煮え立っていた。それを見ると、医者どんと軽業師はもう生きた心地もなく、がたがたと身を震わせている。山伏だけは、なんの心配もなさそうにニヤニヤ笑っている。そして、震えている二人に言った。
「心配いらん。わしが祈祷ばすると、どぎゃん(どんなに)熱か湯でん、見とるうちにぬるうなってしまうけん。」
それから山伏は、顔の正面で両手の指をかたく組み合わせて、大きな声で、
「サーマクサーマンダ
マニハンドマダラ
ホキャシャディ
ソロソロソワカ。」
と、わけのわからないまじないの文句を唱えはじめた。しばらくして、まじないがおわった。今度は「えーい!」と、すさまじく大きなかけ声をかけるのと同時に、煮え立っている釜の中の湯の中に手を突っ込んで、何度もかき混ぜた。すると不思議なことに、湯はしだいに温度が下がって、ぬるくなっていった。そこで、山伏は着物を脱ぎ捨てると釜の中に飛び込んで、またしばらく呪文を唱えていたが、
「ああ、ちょうどよか湯加減になってきた。ぬしたちも(あなたがたも)、早う入るとよか。」
と言った。それを見ると、ほかの二人も、やっと落ち着きを取り戻して、大急ぎで着物を脱いで、ドブン、ドブンと湯の中に飛び込んだ。そして、気持ちよさそうに、顔や手足を洗いながら、
「ほんなこて(本当に)、よか湯ばい。ばってん、まじないの効きすぎて、ちょっとぬるうなり過ぎた。ついでに、焚きものばもう少しくべてくれたらよかがなあ。」
などと強がりを言っている。鬼たちは目を白黒させて、
「こらあ、いったい、どうなっているのだろうか?」
と、首をひねっている。そして、鬼は、そのことを閻魔大王に知らせた。大王も驚いて、
「そんなことなら、今度は、地獄いちばんの大鬼に食わせてしまえ!」
と言いつけた。そこで三人は、その大鬼の住んでいる岩屋に連れて行かれた。岩屋には、仁王さんの三倍もありそうな大きな体の鬼が、でんとあぐらをかいていた。大鬼は三人を見ると、おいしそうな食べ物がやって来たぞと、舌舐めずりをして、よだれを垂らしている。
今度は、山伏と軽業師が震え上がった。でも、医者どんだけは落ち着いたもので、
「よかよか、わしが歯の欠ける薬ば持っとるけん。」
そう言いながら、大鬼のそばに近寄って行った。大鬼が、医者どんを抱えて、食おうとして大きな口を開けた時、医者どんは歯の欠ける薬を鬼の歯茎一面
に塗り付けた。
すると、レンガのような大きな歯が、みんな、ボロボロと欠けて、大鬼の足もとに落ちてきた。大鬼はしかたなく、三人を次々に丸のみにしてしまった。
そこで三人は、大鬼の喉元から、ずるずると滑り落ちて、大きな腹の中に、ストンと落ちてしまった。
医者どんは、鬼の腹の中で何かを手探りで探していたが、
「あっ、あった、あった。」
と言って、喜んだ。探し当てたのは、三本の白いすじであった。
「いちばん右が笑いすじ。真ん中のが泣きすじ。左の端が怒りすじたい。」
と、他の二人に説明してやった。そして、
「どれでもよかけん、いっちょ、ぐうって引っぱってみなっせ。面白かぞ。」
他の二人も、「よかろう。」ということになり、相談はすぐまとまった。
そこで、まっ先に、みんなで大鬼の笑いすじをしっかりつかんで、「よいしょ、よいしょ。」と引っぱった。大鬼は、
「わっはっは、わっはっは、わっはっは。」
と、体を揺すって笑いこけた。
何ごとだろうと近くにいた鬼たちが集まって来て、大鬼の様子を不思議そうに眺めていた。
三人は、今度は、泣きすじをつかんで力一杯引っぱったので、今まで大声で笑っていた鬼が、しくしくと泣き出し、やがて、「わあん、わあん。」と、大声をあげて泣き出した。
「次は、怒りすじにしよう。」
と言うので、三人は力まかせにそいつを引っぱった。大鬼は額に青筋をたて、目の玉をぎらぎらと光らせて怒りだし、そばにいた鬼たちを誰かれの見境なく、投げ飛ばしたり、蹴飛ばしたり、こぶしで殴りつけたり、気が狂ったように暴れまわった。近くにいた鬼たちもこれは大変、油断したら殺されてしまうぞと、一目散に逃げ散ってしまった。
それから、大鬼の腹の中にいる三人は、泣きすじ、笑いすじ、怒りすじと、次々に手当りしだいに引っぱったので、大鬼は「わあ、わあ。」と泣叫んだり、「わっはっは、わっはっは。」と笑いこけたり、ぷんぷん怒って暴れ出したりして、とうとうお腹がでんぐり帰って、三人とも吐き出してしまった。
そばで、その様子を見ていた鬼たちが、閻魔大王に知らせに走った。閻魔大王は、たいへん怒って、
「なんとも、しょうのないやつらだ。今度こそ、地獄の責め苦がどんなに恐ろしいものか、骨の随まで思い知らせてやろう。」
と言って、三人を剣の山に追い上げることにした。
剣の山には、草や木は一本もなく、ピカピカ光る刀の長いものや短いもの、まっすぐなものや、反ったもの、それらが隙間なく植え込まれている。こんなところに追い上げられたら、骨も身もばらばらになってしまうであろう。
いよいよ三人は、剣の山の近くまで連れていかれた。後ろから鬼たちが、金棒を振り回して追っかけてくる。逃げようにも前は恐ろしい剣の山。医者どんも、山伏も、いよいよこれが最後かと思い、生きた心地もしなかった。
その時、軽業師が、落ち着きはらって、他の二人に言った。
「元気出せ。心配はいらん。今度こそ、わしの出番たい。」
そこで軽業師は、しゃがんで、右の肩の上には医者どん、左の肩の上には山伏を立たせてから、「よいこらさ。」と立ち上がった。それから、お互いに手をつなぎあうのを合図にして、軽業師は、ひょい、ひょい、と刀の山に飛び乗った。そして、
「チンチリガンツン、ヨーイヨイ。チンチリガンツン、ヨーイヨイ。」
口三味線でリズムをとりながら、剣の山をどんどん乗り越えて行くのである。
もう鬼たちも、どうすることもできない。
剣の山を越えたところには、緑の草木が生い茂り、池のほとりにはハスの花が咲き乱れ、なんとも言えぬ
よい香りが、あたりにただよい、夢みるような美しい音楽が、どこからともなく流れていた。
ここは、間違いなく、極楽浄土であろう。三人は、おどり上がって喜びあったそうな。
おしまい。
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