袋池
天草・苓北町の「袋池」という木の葉が水面に
一枚も浮かない不思議な池にまつわるお話です。

 


 

 富岡城(天草郡苓北町)の登り口の左手に、袋池という大きな池があります。
 昔は魚が泳いでいるさまがわかるような透き通った池だったということですが、今は、緑によどんで底をのぞくこともできません。
 昔、この袋池のそばに、米屋がありました。米屋には、美しい一人むすめがいて、よく、この池に米をとぎにきていました。美しいうえに優しかったので、富岡はもちろん、まわりの村や町でも評判でした。
 両親は、このむすめが自慢でした。
「かわいいうちのむすめには、似合いの婿を見つけてやろうたい。」
 あちらこちらと探しましたが、気に入った婿はなかなか見つかりません。
「あんないいむすめなんだから、三国一の婿でなくては。」
「どうして、良い婿がいないのだろう。」
 人々はそう言って噂しあいました。米屋は、
「やはり、家が金持ちにならなければ、良い婿が来んじゃろう。」
と、あれこれ考えた末、まず、財産をつくることにしました。そこで、商売に使う升(米などを計る四角の入れ物)に細工をすることを考えつきました。普通 の一升(約一・八リットル)升でなく、一升よりちょつと大きい升と、一升よりちょっと小さい升を作り、米を仕入れるときは大きな升で計って買い、反対に、売るときは小さな升で計って売ります。そうすると、たとえば三十杯分の金で買った米が、三十六杯にして売れるのです。そんなことを続けていくうちに、米屋は、だんだん金持ちになってきました。
 心の優しいむすめが、ずるいことをしている両親をみて、心を痛めないはずはありません。
「父さん、そんな恥ずかしいことはやめてください。」
と、たびたび頼みましたが、聞いてはくれませんでした。
 そんなある日、むすめは袋池に米をとぎに行きました。池はきれいな水をたたえていました。米をときはじめたとき、どうしたはずみでしょう、むすめは足をすべらして池に落ち、溺れてしまったのです。
 しばらくして、池にう浮いているむすめを見つけた村人達が、むすめの死体を引き上げようとすると、不思議なことに、むすめは大蛇に変身して、水の中に消えてしまいました。
 両親はなげき悲しみました。
「あの子が大蛇になったのは、米の計りをごまかして、人をあざむいたむくいじやろ。悪いことをした。すまんことをした。」
と、泣きながら、大きい升と小さい升を壊して燃やしてしまいました。そして、池のふちにほこらを建てて、大蛇に変わりはてたむすめの魂をなぐさめました。
 むすめがおぼれ死ぬ前までは、風が強くふく季節ともなると、池の面は木の葉でいっぱいになるのが普通 でしたが、むすめの化身である大蛇が住むようになってからというもの、広い水面 には木の葉一枚浮いていないようになりました。
 ある朝、近くの人が池に来てみると、若い女が、水面の落ち葉をせっせとはいていたということです。
「あれはきっと、むすめ大蛇にちがいない。」
と、村人は噂しあいました。そして、朝、むすめが水面をはく姿を見ると目がつぶれると言って、だれも明け方には池に行かなかったそうです。
 また、あるとき、漁師が魚をとろうと池に網を打つと、急に嵐が起こり、漁師はあわてて逃げ帰りました。それ以来、美しかった水は、緑色に濁ってしまい、魚もいなくなったということです。

 今でも不思議な事に、この池には木の葉が一枚も浮くことはないということです。

 おしまい。

 


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