がわっぱとお竹どん
日本各地に残る、河童伝説。
もちろん、熊本にもいくつか残っており、
このお話は 熊本の北部、荒尾市に残る河童の伝説です。

 


 熊本では河童の事を「がわっぱ」と言ったり、「がわたろう」と言ったりする。河童はいたずらもするが、愛嬌もある。そして、みんな仲良しだ。お話もたくさん残っている。
 むかし、荒尾市の平井というところの井手川に、がわっぱがたくさんいた。
 ある夏の日の昼下がり、川の中にある大石の上で、五、六匹のがわっぱが並んで、甲羅をほしていた。そこへ、釣り竿と魚籠を持ったひとりの男が通 りかかった。すると、一匹のがわっぱが、
「おっさん、魚のおるところば教えようか?そこに、太か(大きい)木の根っこがあるたいな、そこんところに行ってみなっせ。鯉やら、フナやら、ナマズやらの、うじゃうじゃおるばい。」
すると、男は、
「そうかい、そうかい。よかこつば(よいことを)教えてくれた。ありがとう。」
と、喜んで、木の根っこにこしをおろし、針を投げた。
 針を入れてみると、かかるかかる。竿を上げきれないほど、次から次にかかった。男は夢中になって釣り続けた。一時間ばかり釣ってから、だいぶん釣れたので、帰ることにした。男は、
「どれ、どんくらい釣れたろか。」
と、ひとりごとを言いながら、魚籠の中をのぞいてみた。すると、なぜか、魚は一匹も入っていなかった。
「しまった。」
 ふと気付くと、さっきまでいたがわっぱは、一匹もいなくなっていた。
「がわっぱたちが、いたずらしおったな!ようし、今にみておれ、思い知らしてやるぞ!」
と、男は悔しがった。
 やがて、男は知らん顔で、また、木の根っこのところへ釣り糸をたれて待った。すると今度は、大きなフナが釣れた。フナを魚籠に入れて、釣り糸をもとのところへたれて、知らんふりをして横目でじーっと、魚籠のほうを見ていた。
 すると、水の中から黒い手が、すうっとのびて、魚籠の中に入ってきた。男は、すかさずぐいっとその手をおさえた。そして、ぐいぐい引っ張ると、がわっぱの頭がみえてきた。男は、力一杯がわっぱの頭を叩いて、皿を水の中に落としてしまった。そして、川の中から引っ張り上げた。
「もう決して悪さはせんけん(しないから)許してはいよ。」
と、言うのを引きずって、家まで連れていった。そうして、馬小屋の柱に縛り付けてこらしめる事にした。家の人たちが、びっくりして出てきた。
「きょうは、とんでもないことだった。魚は面白かごつ釣れたばってん、みんな、がわっぱにとられてしもうた。腹んたったけん、一匹捕まえてきた。逃がさんごつ(逃がさないように)みんな注意しておかにゃいかんばい。」
 男はお風呂に入ってから、フナの料理で一ぱい飲みながら、夕涼みをしていたが、いつの間にか眠ってしまった。

 この家には、お竹どんという女中がいた。お竹どんが、馬に水をやりにいくと、がわっぱが泣いて、泣いて仕方がない。
「ああ、やかましか(うるさい)。」
 お竹どんは、馬の飲み水をがわっぱの頭に浴びせかけた。すると、今まで泣いていたがわっぱが、泣くのをやめて笑い出した。水が皿にたまったからだ。がわっぱは皿に水がたまると力が出る。がわっぱは、いっぺんに何十倍もの力が出て、縄を引きちぎって川へ逃げていった。がわっぱは、川に入る前にお竹どんのほうを振り返り、何回も、何回もおじぎをした。
 それから、お竹どんがいる間は、がわっぱのいたずらがなかったそうな。

 おしまい。
 
 


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