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むかし、むかし、江津湖の周辺が湧き水にあふれ、湿原地帯であったころのことです。
ここらは一年中水鳥の宝庫で、村人は少しばかりの田畑を作るだけで、豊かな食生活をいとなんでおりました。鳥たちの縄張り争いは激しく、沼の周りをちよっと歩くと手負の鳥に必ずであうので、男たちは弓矢を必要としませんでした。
嫁が飯を炊きはじめると、飯のでき上がるまでに、男たちは鳥をわけもなく捕まえてきます。村人は誰も彼も、ぶくぶく太り、次第に働かなくなってしまいました。
このことを大変気にかけておられたのは、沼のほとりに祀られているお地蔵さまでした。
「なんさま(なにしろ)江津湖へいくと、鴨が昼寝しとるげな(そうだ)。おなごでん、子供でん(女でも、子供でも)手づかみで取るってたい。」
という噂が、村から村へ広がり、こうなると近郷近在だけでなく、遠くの国からも鴨捕りがやって来ました。
それで商売して銭をもうけ、鴨長者になったという人の話まできこえて来ました。
村人たちは、自分たちだけの鴨と思っていたのに、よそ者がここの鴨で長者になった、と聞いては許せません。
もう、今までのようにのんびり、食っちや寝、食っちや寝ではおられません。
村中集まって相談した結果、よそ者を見たら問答無用、かたっぱしから、樫の棒でなぐりとばそう、ということにきまりました。
それからというもの、男たちは田畑の仕事はさておき、昼も夜も、よそ者が侵入しないかと、うの目、たかの目で見張りました。
こちらを見張れば、あちらが手薄となり、まんまとよそ者に、鴨をとられてしまったり、こん棒でなぐった相手が、なんと同じ村人だったりで、この作戦は一向に効果
がありません。村人はすっかりやつれてしまい、「これじやいかん、お地蔵さまにお願いをしよう」と、村おさを先頭に詣りました。
「お地蔵さまお願いでございます。何とぞいい策をおさずけ下さい。このままでは江津湖の鴨は、よそ者にうばわれてしまいます。」
本当は、このことで一番心配されていたのは、お地蔵さまだったのです。
さてその翌日・・・
どこの家からも、飯を炊く煙がのぼりはじめたころ、男たちはいつものように、沼のほとりにやって来ました。
やや、やや、不思議、不思議、沼には鴨はおろか、水鳥一羽の影も形もありません。
ぽかんとつっ立っている村人の頭の上を 「アホー、アホー。」と、鳥が鳴きながら飛んでいるだけ
です。
「どきゃんこつだろう(どういうことだろう)。」
「とても、昨夜のうちによそ者がやって来て、鴨を全部かっさらえたとは思えんが。」
「神かくしにでもあったんじゃなかろうか。」
「なんぞ 天変地異が起こるとじゃなかろうか。」
村人は驚いたり、おびえたりして、早速、村おさの家へ知らせにかけつけました。
村おさは、みなの話をひと通り聞くと
「おお、それじゃ、昨夜の夢は正夢だった。」
といい、夢の話を聞かせました。
「昨夜、わしの夢枕にお地蔵さまが現われ、『人間という者は、物が豊富にあるとその有難さも考えず、怠け心をおこす。また自分だけが銭をもうけようと欲を出す。他人が銭をもうけるとねたましくなる。ここに年中鴨がいるから、みにくい争いが起こるのだ。わたしはこれから、お前どもの眠っている間に、鴨を渡り島にして、遠い遠い北の国へ旅立たせてしまう。』とおっしやったので、『お待ち下され、村人にはわしからよく言いきかせますから』と、叫ほうとするめだが、金しばりに会ったように、声も出ず、体も全く動かんのじゃ、お地蔵さまはそのまま消えてしまわれたが・・・。」
村おさの話に、人々はがっくりして、へなへなと土間に座り込みました。
「さあ、これからみなで力を合わせ、こんど鴨が渡って来るまでに、美しい、住み良か、江津湖にしておこうじゃなかか。」
村おさに励まされ、人々は遥かな北の空に向かい、手を合わせ、旅立って行った鴨の無事を祈ったそうな。
おしまい。
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