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八代の麓というところには、とてもいたずら好きの銀ぎつねがいました。人が通
るのを見ると、必ず悪いことをして、人を困らせていました。
ある日、彦一が球磨川で鮎釣りをしての帰り道、大きな梅の木の下を通りかかると、頭にコツンと何かがあたりました。
「あいたっ。あー、痛かねぇ。なんや、梅ん実たい。」
彦一は、ころがっている梅の実を足でけっとばそうとすると、コツコツ、コツンと、たて続けに梅の実が頭にあたりました。あまりに頭ばかりあたるので、おかしいなと思って上を見上げると、銀ぎつねが、白い歯をむき出して、笑っていました。腹がたってしょうがないが、じっと我慢しました。
「なあんか、ぬしゃ(お前は)銀ぎつねか。ほら、こぶのでけた(できた)じゃなかか。あー、痛か。」
「へへん、彦一しゃん、ここまでおいで。梅ばやるけん、拾うてもどんなっせ(帰りなさい)。」
銀ぎつねは、大きなしっぽをくるくる回しています。彦一は、こぶに唾をぬ
りながら、銀ぎつねを見上げて言いました。
「おい、銀ぎつね、ありがとう。」
「・・・・・・?」
「ほら、梅のあたったろう。だけん(だから)、うめえ事にうち当たるて教えてくれたっだろう(くれたのだろう)?こらぁ楽しみたい。少なかばってん(少ないけれど)、教えちくれたお礼たい。後で食べなっせ。」
彦一は、大きな鮎を一匹、木の根元に置いて、舌をぺろっと出して帰っていきました。
あくる日。彦一がまたそこを通りかかると、銀ぎつねが、傷だらけになって出てきました。びっこも引いてます。
「彦一しゃん。もう悪かこつは、けっしてせん(しない)。昨日は、ひどかめにおうたばい(ひどいめにあいました)。」
「ほー、どぎゃんしたつかい(どうしたんだい)?だいぶん怪我ばしとるごたるばってん(しているようだけど)。」
「彦一しゃんが戻ってから、お城ん役人がぐっさり(たくさん)来たもん。また、うんと褒美ば貰おうて思うて、梅ん実ばおもさん(いっぱい)くらわせた(投げつけた)ったい。ところが、役人どま(たちは)、真っ赤になって俺ば捕まえて、しちゃんかちゃんに(めちゃくちゃに)くらわせたったい(殴ったんだよ)。あー、まだ痛か。」
「そらあ、おおごつ(たいへん)だったね。痛かったろう。もう悪かこつはすんなよ。」
彦一は、にやにや笑って言いました。
それから何日か過ぎた、ある日のことです。彦一が、また、球磨川で鮎釣りをしていました。それを薮の中から銀ぎつねが見つけました。「あら、彦一たい。ようし、今日は彦一ばやっつけてやろう。いつもひどか目にあわされて、あんまりばからしか。」と、ぶつぶつ言いながら考えました。
「ようし。今日はよか知恵のうかんだばい。ふふふふふ。」
と、笑いながら木の葉を一枚ひたいにペタリと貼りつけると、りっぱな侍に変化しました。そして彦一のそばにやって来ました。
「おいおい。彦一。鮎はとれたかい?どれどれ。うわあ、こらあたいしたもんたい。ぬ
しゃ(おまえ)鮎釣りの名人ばい。」
彦一は、見知らぬ侍に声をかけられ、びくっとしましたが、「ははぁ、こやつは、きつねばいな。この前の仕返しか。よし、そんなら、今日もだまかしてやろうたい。」と思って、わざとおじぎをしました。
「あら、誰だろかて思うとったたら、水泳の先生じゃなかですか。今日も水泳の稽古ですか。さすがは八代いちばんの水泳の先生ですね。」
「うん。(こらぁしまった、困ったぞ。)そ、そうじゃ。ところで、ぬしゃこないだ(この前)、釣れた鮎ば全部やるて言うたろが。そっで今日は、わざわざ来たつばい。嘘て言うなら、こん刀で手ばうち斬るけんね。」
「は?なんですか。そぎゃんこつ(そんなこと)ば言いましたろか?」
「うん、言うた言うた。たしかに言うたばい。約束は守らんといかんけんね。」
「しょんなか(しょうがない)ですたい。はい、あげまっしょ。」
「わあ、すまんねぇ。こらあ、儲かった。(あてずっぽうに言うたら当たったばい)」
きつねは、鮎を貰おうと両手をさし出しました。
「とこっで(ところで)、水泳の先生。ああたは(あなたは)こないだお城で、石ばかろうて(石をかついで)球磨川ば泳ぎ渡って見すって言いなはったですね(見せるとおっしゃいましたね)。」
「知らん知らん。そぎゃん(そんな)約束は知らんばい。」
「あらぁ、こすかねぇ(ずるいねぇ)。そらあ、いかんですばい。そんならわたしも、こん鮎はやりまっせんばい。お侍さんが約束ば破っとはいかん。」
銀ぎつねは、美味しそうな鮎は食べたいし、約束を破ったと笑われるのはいやだし、負けん気になって、
「よし、そがん(そんなに)言うなら、泳いで見すったい。鮎はきちんと包うで、そこで見とれ。」
そう言うと、銀ぎつねは、水の中に入っていきました。
「先生。こないだは石ばかろてから泳ぐて言いなはったですばい。」
と言いながら、ふろしきをさし出しました。銀ぎつねは困った顔になって、小さな石ころを二つ包みました。それを見た彦一は、大きな声をあげて、
「そらいかん。そらあ石のうちに入らんばい。まちっとふとか(もう少し大きい)石にしなっせ。」
と、大きな石を十個集め、素早くふろしきに包んでしまいました。銀ぎつねは顔色を失い、金切り声をあげて、
「彦一!そらあいかん!あんまりひどかばい!そがん石ば入れるなら。わしゃうんぶくるったい(溺れてしまうよ)。ちいっと(少し)減らしてくれんかい。」「なんば言いなはっとですか(何を言われるのですか)。八代一の先生が。見苦しかたい。」
「たのむ!半分に減らしてくれんか。今日は調子の悪かごたる。」
「そんなら三つ減らしてあげまっしょ。こっで(これで)よかですな。」
銀ぎつねは、ふろしき包みを片手で下げてみると、まだ、ずっしり重いのです。
「おい、彦一。熱の出たごたる。頭んいとうなった(痛くなった)けん調子の出らんばい。まだ多すぎるけん減らしてはいよ(ください)。」
彦一は、にやにやしながら石を半分にしました。それでも銀ぎつねには多すぎる程です。でも銀ぎつねは、それ以上減らそうとすれば、化けの皮がはげると思って、首にくくり付けてもらいました。
そして、できるだけ浅い所を行こうとしているうち、急に深い所に落ち込んでしまいました。
「彦一しゃん!助けてくれー!」
その後、すっかり変化がとけた銀ぎつねは、彦一に釣り竿で助けてもらったそうな。
おしまい。
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