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むかし、むかし、菊地郡泗水にある三万田の里に、お藤というとてもきれいなむすめさんが住んでいました。お藤は気だてもよく、その上、利口でよく働きました。
お藤のお母さんは、お藤がまだ小さいときに病気で亡くなり、お藤は、その後に来た新しいお母さんと、お母さんが連れてきた妹と一緒に暮らしていました。
新しいお母さんは、たいそう意地の悪い人で、自分の娘ばかりかわいがって、お藤には、掃除、ご飯炊き、洗濯と、休む暇もないほどの仕事を言いつけていました。
雪のちらちら降る寒い冬の日のことでした。きょうもお藤はあかぎれのできた手をさすりながら、近くの冷たい谷川で菜っ葉を洗っていました。そこへ、立派な身なりの殿様が馬に乗って通
りかかりました。見ると、かわいらしい女の子が、一生懸命に働いています。今まで見たこともないようなきれいな女の子です。殿様は思わず、
「谷川の 小菜ふりすすぐ おとめ子の 背の高ければ 妻にしたきを」
と、歌をおよみになりました。谷川で小さな菜っ葉を洗っている女の子の、背がもう少し高いなら、わたしのお嫁さんにしたいのに、という意味です。すると、お藤はにっこり笑って、
「この山の つつじ椿を ごろうぜよ 背は低けれど 花は咲きたり」
と、すぐに歌を作って返しました。この山のつつじや椿をご覧なさい、背は低くてもきれいな花が咲いていますよ、という歌です。殿様はこれを聞いてびっくりしました。田舎者と思っていたこの女の子が、こんな立派な歌を、しかも、すぐに作ってお返しをする。なんて素晴らしいむすめだ。ぜひ、お嫁さんにほしいものだ。そう考えた殿様は、
「名はなんという。家はどこだ。近いうちにむかえにくるぞ。」
と、言い残し帰っていきました。
お藤は家に帰ると、すぐにその話をしました。新しいお母さんは、「このお藤が殿様の嫁さんに?とんでもない。そんなことさせてたまるものか。かわりに、なんとかして自分のむすめをお城にあげるようにしよう。何かうまい方法はなかろうか。」と考え込みました。
それからいく日か過ぎたある日のことです。馬に乗った殿様が、かごを従えてむすめの家にやって来ました。
突然のことで、新しいお母さんは大慌て。大急ぎで自分のむすめにきれいな着物を着せると、家の外までお出迎えをしました。けれどもお目当てのお藤にはボロボロの着物を着せ、顔には鍋に付いたススを塗らせ、真っ黒な顔にして台所の隅に隠してしまいました。
新しいお母さんは、きれいに着飾った自分のむすめを殿様の前に出すと、
「よくいらっしゃいました。これがむすめでございます。このたびは、むすめをお嫁にしていただくそうで、誠にありがとうございます。」
と、お礼を言いながら、いろいろとおもてなしをさせました。お茶を出したり、御馳走を並べたりしてもてなしているむすめの姿を見ながら、殿様はなんとなくうかぬ
顔をしています。
「・・・違う。なんだか違う。この前会ったむすめはもっと上品であったし、もっときれいであった。あのむすめがこの子であろうか・・・。
・・・そう、そう、あのむすめは素晴らしい歌をすぐに作って返した。あのむすめならすぐに歌ができるはずだ。そうだ、ひとつ試してみよう。」
そう考えた殿様は、むすめに、
「お盆と皿と塩と松の枝を持ってこい。」
と言いつけました。道具が揃うと、盆の上に皿を重ね、塩を置いて、その上に松の枝をさし、
「さあ、これで歌を一首よんでみよ。」
と言いました。むすめは困りました。今まで歌なんて作ったことがないのです。だまってもじもじしているむすめの様子を見て、殿様は、
「さあさあ。早くよめ。早く早く。」
と、気短にせき立てました。もう仕方がありません。むすめは思いきって、
「ぼんの上にさら さらん上に塩 塩ん上に松 松のしんはぽきん」
とよみました。聞いていた殿様は、あまりにも下手な歌なので呆れてしまいました。こんな歌を作るのがこの前のむすめだとはどうしても思われません。殿様は何が何だかわからなくなりました。すると、どこからか、
「ぼんさらや やさらが嶽に 雪降りて 雪を根として 育つ松かな」
という声が聞こえてきました。これを聞いた殿様はポンと膝を打ちました。
「これだ、この声、この歌だ。あの声の主をさがせ。」
と、家来に命じました。そして、台所の隅に隠されていたお藤をさがしだしました。顔のススを落とすと、いつか谷川で約束したあのむすめの顔があらわれました。
「よかった。この子であった。嫁にもらうぞ。」
殿様はたいへん喜んで、かごに乗せてお城に向かいました。
もう、どうしようもありません。ところが、今まで何でもお藤にさせていた新しいお母さんは、お藤がいなくなると食事の道具の置き場所さえわかりません。それに気がつくと、裸足でかごを追っかけて、大声で、
「お藤、ご飯のしゃもじはどこにあるか。」
と訪ねました。すると、かごの中から、
「ふじふじと 呼ばるることも きょうかぎり あすよりのちは お藤さまさま」
と、お藤の声が聞こえて、かごはそのままお城のほうへ進んでいってしまったそうな。
おしまい。
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